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Hiromoto Toeda Archive
戸枝 陽基(とえだ ひろもと)ワールドへようこそ。
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街の中でふわりふわりと考えるvol.13「ロボットと外国語」

 科学の進歩ってすごい。僕は、最近、いろいろな縁が重なって、東京にあるコンピューターのソフトウェア会社の製品開発を手伝った。僕が手伝ったのは、その会社が障害のある方やお年寄り向けに開発した視線入力装置の実証実験とその報告書の作成だ。

 この視線入力装置は、目の黒目部分の動きをカメラでとらえ、目がパソコン画面のどこを見ているのかを測定して、視線がどこにあるのかを判断し、画面上にある文字の書いてあるボタンを押す仕組みになっている。そうやって、文字入力ができるという装置だ。
 これが製品化されれば、体がまったく動かない方でも、自分の意志を表現できるようになるし、携帯電話のメール機能もあるので、いろいろな方とコミュニケーションが取れるようになる。

 ふわり会員でも、このソフトができたら、ボタンを絵カードにするなど、もっと単純にすれば、きっと便利に使える人がいるなぁと思って、興味を持ち仕事を引き受けた。
 重症心身障害のある大好きな○○ちゃんから、「ひろもと ふわりで こんどいつあえる?」なんてメールが来るかも知れないなどと考え、ひとりニヤニヤする怪しい僕。

 この会社、もともと、物体を3次元でとらえる画像処理技術を研究開発している会社だとのこと。社長さんによると、「将来、ロボットができた時に、目の部分の役割を果たす技術開発をしている」らしい。そう言われても、福祉というとてもアナログな世界で生きている僕には、どうもピンとこない。自分なりにうーんとひとつ唸って一生懸命イメージを思い浮かべた。

 以前、雑誌か何かで、国が大まじめに介護ロボットを開発して、お年寄りを抱えて移動したり、食事の介助をしたりということをやらせようとしているという文章を読んだことがある。僕は、そのときすぐに、ロボットに人をそっとやわらかく抱き上げるとか、その方が怖くない高さで移動するとか、そんな配慮ができるもんかケッ!と思った記憶がある。
 しかし、この会社の研究開発している技術というのは、そういうことなのだとイメージした。今までの画像処理技術というのは、テレビに代表されるように、2次元・平面を前提にしてきた。それを、例えば、おばあちゃんなどという、3次元・立体としてとらえ、さらに、それをどのくらいの力加減で持ち上げたら心地よいのかみたいなことが判断できるようにしようとしているのだ。む−ん。しつこいけれど、科学の進歩ってすごい。

 僕が開発に関わった視線入力装置は、その研修開発の副産物だった。目の機能を研究し視線を読み取るという技術開発をしているうちに、これは、寝たきりで、最後に目の機能しか残っていない人たちの意思伝達に応用できるのではないかということに気がついたらしい。ただ、そうは思いついても、福祉とはまったく接点がない会社なので、福祉の人で、パソコンがある程度わかる人が必要だと言うことになり、僕に白羽の矢が立ったということだった。

 その話をいただいて、はじめて東京にある会社のオフィスに行ったときは、ある意味でとても衝撃だった。そのオフィスは、渋谷区のビルの2階にあった。オフィス自体は、想像していたような、パソコンや様々なデジタル機器が雑然と並んだ、いかにもコンピューターソフト開発の会社だなぁという感じだったのでさして驚きもない。僕がびっくりしたのは、その会社のオフィスに一歩入った瞬間、公用語が英語になったことだった。

 オフィスを見回すと、パソコンに向かっている人の多くは、明らかに外国の人。実は僕、学校で習うお勉強の中で、英語が一番できなかった。母いわく、中1で英語が授業で始まった頃、僕は、英語なんて、すぐに同時通訳機ができるから勉強する必要はないと先生に主張し、まったく勉強しなかったらしい。お陰で、今でも外国の方に話しかけられると、背中にヒヤーと冷や汗が流れる。
 しかも、かわいそうなことに、僕は、表情があまり変わらない人なので、外国の方は、僕が話しかけられても動じていないと思うらしく、だいたい、すごい勢いで話されてしまう。ううっ。そんな訳で、予想もしていなかった外国人たくさん職場に僕は凍りついてしまった。

 もしやと思ったが、そんなのは当たり前のことで、僕が打ち合わせる視線入力装置の開発者は、外国の方だった。とりあえず、一回、体験してみようということになり、装置の前に座る。開発者の美人白人お姉ちゃんが、やり方を英語で説明してくる。僕は、固まりながらも、なんとなく、言っていることはわかるので、そそと応対する。僕が持っている応対の武器は、頼りないヒヤリング力と「あは−ん、おーいえーす、の一、そ−り−わんすもあぷり〜ず」という4つの単語(単語か?)&目がまったく笑っていない引きつった笑顔。社長さんの通訳に幾度も救われながら、なんとか、装置を体験し、その概略を理解することができた。

 「てんきゅ〜」息絶えそうな小さな声で、白人お姉ちゃんに礼を言って、装置を離れる。その後、お年寄りや障害のある方が使ったときに起こる問題点を僕なりに整理して説明し、僕が指摘した問題点を改善した装置で、実際に障害のある方に使ってもらい実証実験をし、その報告書をまとめることになった。

 打ち合わせが終わると、もう、お昼だった。社長さんが、「一緒にご飯でもどう?」と誘ってくれた。「じゃあ、せっかくなので、ご一緒させてください」と言い、荷物をまとめて社長さんとオフィスを出る。日本国に突如現れた英語圏から脱し、僕はひとり、ほーっと大きな安堵のため息をついた。
 社長は、僕を、中華料理屋に連れて行ってくれた。ほっとして、お腹が減った僕は、いい匂いに心躍らせながら店に入った。

 「お−!」店に入るなり、社長さんが誰かを見つけ、親しげに手を挙げた。誰か、知り合いがいたのねと社長さんの手を振る方に僕も視線を走らせる。その瞬間、僕は再び凍りつく。なんとそこには、笑顔で手を振る、先ほどの白人お姉ちゃんがいた。僕たちが打ち合わせをしている間に、いつの間にか食事に出ていたのだ。隣には、真っ黒な男の人まで座っている。ううっ。

 結局、そのまま、みんなでランチを食べることになった。社長さんの通訳とそれぞれの片言日本語と英語で話しをしたところによると、お姉ちゃんはフランス人、真っ黒な男の人はインド人だとのことだった。日本で、フランス人、インド人と中華料理を食べながら、英語でお話。ああ、僕って、なんて国際人なんだろうと緊張を通り越して、陶酔感すら感じるくらい、とても刺激的で訳のわからない時間と空間を堪能させていただいた。そして、その時、その方達からいろいろ吸収し、この時間をより有意義なものにする手段として、英語が話せたらなぁとつくづくと思った。福祉をやっていても、駅前留学をして外国語を勉強しなければならない時代がいよいよ来たということだろうか。

 そういえば、介護ロボットと同時に、国は大まじめで、これからの高齢化社会の介護の担い手として、外国人労働者の導入を考えているらしい。人件費の安い国の方々に就労ピザを発給して、介護労働者にしたらどうかという考えだ。これからの少子高齢化社会では、あながち、ない話しとも思えない。そうなったら、福祉の仕事でも、本気でいろいろな国の言葉を覚えないとやっていけなくなる。

 ロボットと外国語。数年前までは、福祉の仕事をしている自分には関係のないものだと思っていた。そう考えてみると、福祉の世界もすごいスピードで変わってきていると実感する。戦後50年、変化らしい変化のなかったこの世界だけれど、これからは、激しい変化が起き、既成概念にとらわれず、柔軟に自分を変えていける人材が求められてくると思う。しなやかにかろやかにすみやかに。うーん。


出典
戸枝 陽基
 “季刊誌「ふわふわ」2002年4月 『街の中でふわりふわりと考える』“より


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