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Hiromoto Toeda Archive
戸枝 陽基(とえだ ひろもと)ワールドへようこそ。
時間の許す限り。ごゆるりとお立ち寄り下さいね。

もう施設には帰らない


“牧場を広げる”から、“柵を壊す”へ


 ある日の昼下がり。僕は、施設入所経験のある障害者の自立生活運動に関わっている方と障害者の地域生活について、あれこれ話をしていました。
 その日、僕は、障害者の暮らしを地域の中に築くために、街の中に小規模な社会資源をたくさん用意し、そこに、援助者を配置して支援をするんだと自分の夢を語っていました。
 僕の話を聞いていたその方が口を開きました。「生活の場が、地域に移っただけでは意味がない。お前のやっていることは、牧場を広げて柵を見えなくしているだけだ」。僕が、意味がわからず「はい?」と聞き返すと、その方が怒りに満ちた低い声で説明を始めました。
 「僕たち障害者は今まで、望んでもいないのに、牧場に入れられ、柵の中で飼われてきた。そこは、食べ物があり、牧夫が面倒を見てくれ、外敵も来ない安全な場所だ。周りは善意でやっているのかもしれないけれど、そんな環境にいたら、誰でも考えることをやめ、無為に日々を過ごし、本来もっている力を出さずに人生を終わってしまう」
 麻痺で伸びきらない、その方の指が激しく僕を差しました。
 「柵を壊さなきゃダメだ!狼に襲われて、自分の力で必死に戦ったり、逃げたりしたときにはじめて、障害者はまた、柵の外で生きていく力を取り戻すんだ。護られている限り、障害者の自己実現はない!」
 帰りの車の中、僕はショックで、頭を混乱させ自問しました。「そ、そんなこと言ったって柵を取った瞬間、あっという間に狼に食われちゃう人はどうするの?えっ?えー?」。
 僕が、その答えを必死で探していたある日、何気なくテレビを見ると、アニメ「アルプスの少女ハイジ」がやっていました。ヤギ飼いのペーターが、はぐれてしまった子ヤギのユキちゃんを必死で探しています。霧に巻かれ、道に迷いながらも、ペーターはユキちゃんを見つけ出します。走りよるユキちゃん。抱きしめるペーター。僕の目に涙。よかった。
 その瞬間ひらめきました。「そうか、寄り添うのか!」。ヤギに寄り添い、狼と戦って食われそうになったり、道に迷ってメェーと助けを求めたときに、必死で助ける。そういう人がいれば、ヤギは柵の外に出られます。行く道も食べるものも、ヤギが決める。うん、それだ。
 うんと頷いて、そんな僕をイメージしてみると……。これが正直、自身がありません。ヤギと険しい山道を登る体力。狼に立ち向かう覚悟とヤギを護る技術。的確な情報提供。ああ、柵の外でヤギと過ごすって、大変なことなのね。ペーターお前偉いなぁ。あれれ……。実は、柵の外で生きていけないのは、ヤギではなく、牧夫だったのかしら?うむむ。
 そういえば。最近しばしば、地域で生活し、鋭い角をもったヤギに遭遇します。そのヤギは、僕なんかよりずっと力強く、まだ角の生えていないヤギを護ったりしています。
 うう。ヤギたちは柵の外で力をつけたとき、牧夫すら置き去りにするのかもしれません。
(NPO法人ふわり理事長 戸枝陽基)

 
 編者/「10万人のためのグループホームを!」実行委員会
 発行者/荘村多加志
 発行所/中央法規出版株式会社
 2002年12月24日 初版発行   
 定価1500円

                     も く じ
             
第1章 知的障害のある21人の声 *9
でけへんことは助けてもらって、地域生活ができたらええと想う *10
  /出口 幸史[聞き取り・解説 谷口耕一]
自分のためにも、人のためにも、いい実験材料になれればいいと思います *16
  /米田 光晴[聞き取り・解説 牧野賢一]
もっと若いときにこんな経験がしたかった *22
  /井上 太[聞き取り・解説 小松輝子]
施設は臆病な人間をつくるところです *28
  /大滝 紀久子[聞き取り・解説 花崎三千子]
一人で何かやることは教えられませんでした *36
  /山田 恵子[聞き取り・解説 花崎三千子]
施設とグループホームでは、空気から風から違います *43
  /広田 詔信[聞き取り・解説 林 弥生]
私たちに関することは、私たちを交えて決めてください *46
  /三浦 正春[聞き取り・解説 光増昌久]
グループホームに来て味わった一人でできる楽しみ *56
  /塚田 欣哉[聞き取り・解説 光増昌久]
施設ではだめ。自分のうちでゆっくりしたい *62
  /佐々木 清春[聞き取り・解説 花崎三千子・光増昌久]
押し込めておくだけなら施設はいらない *69
  /川合 隆[聞き取り・解説 大槻美香]
夢なんか見たらいけないところだった *74
  /犬塚 隆行[聞き取り・解説 三田優子]
「出てよかったよ!」施設にいる仲間たちに伝えたい *80
  /川田 由景雄[聞き取り・解説 三田優子]
少人数で住んでいるのがうらやましかった *84
  /松井 富子[聞き取り・解説 三島礼子]
施設を出たいという本人の気持ちを大事にしてほしい *89
  /石田 徹[聞き取り・解説 大槻美香]
30年、ほんまに長かった。施設に戻るのはいやです *94
  /佐藤 恵美子[聞き取り・解説 林 弥生]
総理大臣も施設で生活してみたらようわかると思うわ *99
  /藤野 正弘[聞き取り・解説 林 弥生]
一人では寂しい、でも施設になんかいたくない *102
  /谷平 孝男[聞き取り・解説 本田隆光]
施設から出たい人がおったら出たらええんで *108
  /市原 静子[聞き取り・解説 林 弥生]
施設には戻りたくございません。おしゃれできんし *110
  /川田 留里[聞き取り・解説 林 弥生]
過程が必要だということ。それをみんなにわかってほしい *114
  /松本 隆幸[聞き取り・解説 三田優子]
これからは自分たちでやっていきたい *120
  /水橋 寛光[聞き取り・解説 川瀬 悦]

第2章 サポーター21人の声 *131
本人の言葉で福祉の光景ががらりと変わる *132
  /竜円 香子
“牧場を広げる”から“柵を壊す”へ *134
  /戸枝 陽基
地域のセーフティーネットづくりに協力を *136
  /辻川 圭乃
“やむを得ない選択”はもう終わりにしよう *138
  /室津 滋樹
私の脱グループホーム宣言! *140
  /依田 雍子
街のなかで育つ娘の“財産” *142
  /本橋 成一
地域の支えこそが“夢”をかなえる *144
  /佐藤 進
本人の「入所施設はNO」に直面するときがきた *146
  /大石 剛一郎
障害の重い人たちにこそグループホームを *148 
  /白井 和子
“ノーマライゼーション”と入所施設が共存する不思議な国 *150
  /宮代 隆治
「もどってきたい」と思う人が「もどってこれる」まちづくりを! *152
  /藤内 昌信
父として、記者として *154
  /遠藤 哲也
必要なのは“生活センス”。地域に出なければ身に付かない *156
  /名川 勝
隔離政策の代償 *158
  /森元 美代治
“当たり前“を後退させないために *160
  /関 宏之
もう嘘をつくのはよそう *162
  /大塚 晃
施設が残り二カ所の国と日本の違い *164
  /米増 昌久
ノーマライゼーション、三人の父 *166
  /大熊 由紀子
地域で支え続けることを示したあるドクターの志 *168
  /根来 正博
施設入所者が“本当のニーズ”に気づくとき *170
  /福岡 寿
施設関係者も地域に出るときがきた *172
  /小林 繁市






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